大判例

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東京高等裁判所 昭和44年(う)1628号 判決

被告人 西海石敏雄

〔抄 録〕

論旨は要するに、原判決は、本件について、刑法第二〇五条第二項(尊属傷害致死罪)の規定を憲法第一四条(国民の法の下における平等)に違反する無効な規定であるとしてその適用を排斥した上刑法第二〇五条第一項(傷害致死罪)の規定を適用して処断しているが、右は憲法第一四条の解釈を誤り、ひいては当然適用すべき法条の適用を怠る違法を犯したものであるというのである。

そこで記録を調査すると、原判決が刑法第二〇五条第二項の規定を違憲と断定した理由の要旨は、憲法第一四条は個人の尊厳と人格の尊重を基調とする国民平等の原則を宣言し、憲法の基本原理に照して合理性の認められない一切の差別的取扱を禁止しているが、直系親族間の生活関係は、尊属から卑属に対する保護慈愛の一方的関係ではなく、卑属から尊属に対する扶養敬愛の関係が併存する相互的関係であり、しかもそれは個人の尊厳と自由平等の原理にしたがつて尊卑の身分的序列にかかわらない本質的平等の関係と解すべきであるから、刑法第二〇五条第二項が直系尊属を傷害して死に至らしめた卑属に対してのみその法定刑を加重したことは、たとえ直系尊属に対する傷害致死罪の反倫理性、反社会性を重視する見地からみても、これと同等に取り扱うべき夫を傷害した妻、妻を傷害した夫、または直系卑属を傷害した尊属と比較してこれを不当に不利益に差別するものであり、結局同条項は、親族共同生活において夫婦関係より親子関係を優先させ、親子関係における権威服従の関係と尊卑の序列を重視する親権優位の旧家族制度的思想に胚胎する差別的規定として現在ではすでにその合理的根拠を失つた違憲無効の規定であるというにある。

しかし、憲法第一四条は、人格の価値がすべての国民について平等であり、したがつて、人種、信条、性別、社会的身分または門地により、国民の政治的、経済的または社会的関係における基本的な権利義務に関し、あるいは特権を享有し、あるいは特別に不利益な待遇を与えられてはならないという大原則を示したものであるが、このことは、国民各自の年齢、自然的素質、職業、人と人との間の特別な関係等の各事情を考慮して、道徳、正義、合目的性等の要請により、国民がその関係する各個の法律関係において、それぞれの対象の差にしたがつて合理的に異なる取扱を受けることまでも禁止する趣旨を包含するものでないこと、刑法において尊属親に対する傷害致死が一般の場合と比較し重く処罰されているのは、法が子の親に対する道徳的義務を重要視し、加害者たる卑属の背倫理性を重い犯情としてとくに考慮に入れたものであつて、被害者たる尊属親に対し、尊属なるが故に特別に利益な権利または待遇を与えてこれを保護しようとする立法趣旨ではないこと、したがつて、刑法第二〇五条第二項の規定は、憲法第一四条に違反しないことは、最高裁判所判例(昭和二五年一〇月一一日大法廷判決刑集四巻一〇号二〇三七頁、昭和二九年一月二〇日大法廷判決刑集八巻一号五二頁)の示すところであり、当裁判所もこの見解をもつて正当と考える。されば右規定を違憲と断定し、被告人につき尊属傷害致死の事実を認定しながらこれに同項を適用せず、一般の傷害致死に関する同法第二〇五条第一項を適用処断した原判決は、憲法第一四条の解釈を誤り、ひいては当然に適用すべき法条の適用をなさなかつた違法を犯したものであり、右違法は判決に影響を及ぼすことが明らかであるから破棄を免れない。論旨は理由がある。

(遠藤 青柳 菅間)

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